革ジャン⇔スーツ

毒は持っていません。毒と感じるのはあなたの感性。

吐いた唾

仕事の方はかなり順調で最近は凄く忙しくさせて頂いており感謝感激雨あられである。体調不良、寝不足、肥満、加齢臭、薄毛も何のそのである。その昔、と言っても10年やそこらの話であるが仕事が無いあの日の事を思えば、頂く仕事の話は漏れなく断りたくないし、あの頃何も出来ない私に仕事を振ってくれた方々に仕事で恩返しをしたい、そう思いながら関西から関東を右往左往しているというわけである。

今日ある打ち合わせでふと昔を思い出した、と言うよりもある人物(A村)の顔を久しぶりに見た。その人物は業界の競合他社社長、否、元社長と言うべきか。その会社は既に倒産しており、別会社に再就職し営業部長として私の前に現れた。元々競合という事もあり、それほど親しくしていた訳では無いが、顔も名前も知っている。相手も私を知っているだろう。あの頃それほど実績もない、仕事も無い私の事を、彼は知っている。

当時、数少ない顧客先で作業をしていた時にそこのオーナーが私に話しかけた。「先週A村が来たで。何や新商品や言うて。えらい高い見積もり持って来よったわ。」「そうですか。ええ商品なんやったらええんちゃいますか。」「高すぎるわ。ほんでな、あんたの事無茶苦茶言うとったで。あんなド素人と付き合わん方がよろしいで、詐欺みたいな男や言うて。」「そうですか(笑) まぁ社長がお前要らん言わはるんやったら身引きますわ(笑) 」「いや、アイツの方追い返したわ(笑)」「おおきに(笑)」

そんな話を私は何ヶ所かでお客さんから耳にしていた。まぁ、私にそれほどの実績はまだ無いし、しょうがねえよなぁ等と思いながら日々の仕事をこなしていた。時は経ち、我々の製品が少しづつ拡がり、私の名前も知って貰えるようになった。独立してもう10年である。計画段階から技術的な協力をしていた海外のプロジェクトに我々が参加する事が決まった。話を進めていく中で某会社が私に接触してきた。その会社の役員と営業部長であるA村である。

彼は私の目の前でペラペラとよく喋った。私の事をよく知っていると。目の付け所が他とは違う優秀な男だと。私の周囲の人物の名前を出し、どれだけ私と近いかを「その役員に向けて」話し続けた。私も終始にこやかに、冗談を交えながら、頷きながら話を聞いていた。「懐かしい話」「昔の話」を上機嫌で、二枚舌を目の前でベロベロと唾をバラ撒きながら話しているのを遮り私は笑顔で言った。

「で、今日は何をしに来られたのでしょうか。」

安いとか高いとかで私は商売をしていない。信用できる人達と面白い仕事がしたいのだ。最初に何かの一言があれば私は特に気にしないのに、何も無かったかのように、自身のアピールの為に私を利用するその腐った根性をまた惜しげも無く見せられては、もう私も何も言う事など無いし聞きたい話も無い。

私は思った。吐いた唾は返ってくるんだなと。私は彼の話を何もしていないし、帰った後の彼が社内で私の事を何と言っているのかなど興味ない。私は面白い人達と面白い仕事がしたいだけなのだ。二枚舌で生きてきたのならこれからも二枚舌で生きていけば良い。私のやり方が間違っているのなら5年後、10年後に私の会社は「ちゃんと」グシャグシャに潰れているだろう。それはそれでしょうがない。

人を下げて上に行きたいとは思わない。我々のような元々「下」の人間は、下の人間同士ギャーギャーと笑いながら面白い仕事をし、その仕事がちゃんと認められる仕事であれば勝手に上に上がれると信じている。上がれないのなら私が悪い、もしくは何かが足りないのだ。何が足りないのかを上目遣いで見ながら、嘘や文句ばかり言っている人間・会社の立ち位置を私はいつも狙っているのである。

 

※ フィクションです。