革ジャン⇔スーツ

毒は持っていません。毒と感じるのはあなたの感性。

貴方の悪夢の上でどうか踊らせて

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その日私は疲れていた。言語の分からない口喧嘩のような打ち合わせを朝からぶっ通しで行い、図面と相手の表情を確認しながら指示決定をしていると夕方頃から激しい頭痛が私を襲った。簡単な夕食をメンバーと一緒に済ませ、ホテルの部屋に早々と戻った。打合せ中は見ないようにしていたOutlookを開くと、日本の仕事を一通また一通と次々に受信してゆく。深いため息をつきながら煙草に火を点ける。部屋の小さな冷蔵庫に買い溜めしてあるミネラルウォーターを取り出して一気に飲み干した。パソコンの電池残量が少ないとアラームが鳴ったので備え付けの奥行きの無いデスクにパソコンを置いて充電をした。

デスクの隅にふと目をやると、ホテルのファイルが置いてある。何気に開けて見てみると「マッサージあります」と日本語で明記されたパンフレットが入っていた。これは助かる。価格を見ると60分で 340,000(1,700円程度)とある。すぐに部屋備え付けの受話器を取り、フロント直通の「2222」を押した。マッサージをお願いしたい旨を伝えると、電話先の女性スタッフが片言の日本語で「ワカリマシタ。ベトナム式ト、タイ式、ノ、ドチラニ、シマスカ?」という問いがある。う~む。ここはベトナム。折角なのでベトナム式でお願いしたいと私は受話器を置いた。

「さてどうしようか。」

再度ベッドに倒れ込んで煙草に火を点ける。天井を見上げながら煙を吐き出し、今期の仕事量の事を考えた。お客さんから声を掛けて頂く案件ばかりなので断れないから請けてはいるがもうそろそろキャパオーバーである。人を雇おうにも専門的過ぎて使えるまでに3年は掛かる。仕事が無くて一人で走り回っていた時期と、こうやってそこここから声を掛けて貰えるようになった期間が短すぎて捌ききれない。昔からお世話になっているお客さんも沢山いるので金額で優先順位を決めるわけにもいかない。しかしながら儲かる仕事をしていかないと会社が存続しない。また深い溜息を煙と一緒に吐き出した。

「ビー」

部屋のブザーが鳴った。いきなり大きな音が鳴ったので驚いて飛び起きた。そうか。マッサージを呼んだんだった。とりあえず目の前の仕事を一つ一つこなしていくしか方法は無い。私にブラックもクソも無いのだ。お客さんの期待に応えねばならない。一時間だけでも仕事の事は忘れて、このマッサージで身体の隅々まで血液を流すのだ。私は部屋のドアに近付いてそのドアを開けた。

施術士は女性だった。年のころはどうだろうか。30代前半~ぐらいに見える。「ヨロシク、オネガイ、シマス」笑顔で部屋に入ってきた。改めてその女性の全身が私の目に入る。派手だな...。想像していたのは作務衣か白いユニフォームだが、その女性は上半身は黄色のシースルーにキャミソール、下半身は「そんなのどこに売ってんの?」というホットパンツである。どうだろうかこれを読んでいる諸君。私は嫌な予感しかしなかった。しかし私はまさか1,700円でエロマッサージは無いだろうと高を括る。

どうしたら良いか私は彼女に聞いた。始めは笑顔であったが態度がやたらと高圧的である。彼女はTシャツを脱げと私に指示をする。マッサージなのに上半身裸になんの?と思いながらTシャツを脱ぐと、下の短パンも脱げと彼女は言う。「は?なんで?」と聞き返すも、彼女はぶっきらぼうに早く脱げと短パンを下に引っ張る。何これマジで?私は彼女の言うがままにパンツ一丁となった。とりあえずうつ伏せになってベッドに寝転ぶと、彼女は私に跨って背中にオイルを塗り始める。

「ちょっと待て」

私は彼女にパンフレットを取るように言った。私が頼んだのはオイルマッサージではない、ベトナム式のマッサージだ。価格は合っているのか?このコースで間違いないのか?と問うた。彼女は言う。間違いないと。海外では「やったんだから金をくれ」と平気で言う輩が多い。まぁ、サービスでやってくれてるなら良いかと私は再度ベッドにうつ伏せになった。オイルで滑らせながらのマッサージは思いのほか気持ちの良いものだった。5分おきに彼女は言う。「キモチイイカ?」私はそれを言われるたびに「キモチイイデス」と答えた。何の罰ゲームなんだこれは。黙って揉め。

そうこうしてるうちに疲れている私はウトウトとしだす。ガチガチに固まった筋肉が解れていくのを感じながら、意識が遠のいていきそうになったその瞬間、私は違和感を感じて目が覚めた。パンツを半ケツまでずらされてお尻のほぺたをキュイキュイとつまむ。私はお尻はこっていない。そう思っているのも束の間、際どい所までオイルで滑りながら指が入って来たので「NO!」と言って手を払いのけた。彼女は私の股間を指差しながら言った。「ココ、モ、マッサージ、スル?」私は言った。「No Thank you」と。彼女は何度も「ココモマッサージスル?」と聞いて来たが私は頑なに断った。それは何故か。

ハノイはそういうエロ系にかなり厳しい地域であり、見つかると最悪ブタ箱に放り込まれる可能性があると私は事前に聞いていた。それでなくとも海外で何の病気があるのか分からないのに、安全が担保できない素性の分からん女とまぐわう気は毛頭ない。毛はまだある。そして本来は接客業であるにも拘わらず高圧的な態度と「ニホンジン、チ〇コ、ファファッ、ト、シタラ、ヨロコブ、ン、ヤロ?セヤロ?」的な思想が気に食わない。私は疲れているのだ。筋肉をほぐせと言ってるのであってチ〇コをほぐせとは言っていない。あと言い忘れたが彼女は白鳥沢麗子に酷似している。諸君は知ってるだろうか。まぁ念のために参考資料を貼り付けておこう。

 

 

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 白鳥沢麗子

 

 

申し訳ないが部屋に入ってきてその派手な格好を確認した瞬間「お前なんでそんな恰好してんの?」というのが私の感想である。人を見た目で判断する気は無いが、その高圧的な態度や「ドヤ、ニホンジン、オイ、ニホンジン」的な思考が気に入らない。現に何をされても血流など無い。その後もしつこく私の秘部を触ろうとするも手をパチンと叩くを繰り返した。「えxcyjんkm;ljtchj!!!」と何やら文句を言っているようだが無視である。貴様が簡単に触れるほど私も落ちぶれちゃいない。さっさと仕事しろ。それらを10分も繰り返されるとさすがに私ももうめんどくさいので頼んだ料金の倍を払ってもういいから帰れと帰らせた。

まったくこんなところで私は何をしているんだとまた溜息をつきながら煙草に火を点ける。ベッドの横には全身を写す姿見が壁に備え付けられていた。そこに写っているのは疲れた顔をした、醜くブクブクと太り禿げ上がった、全身をオイルまみれにされてテカテカに光らせながら肩を落としている引退前のモンゴル相撲力士である。半ケツのパンツを上げる気力も私にはもう無い。そのまま部屋の窓を開けて街を見下ろす。裸電球と安物のネオンがチカチカと私の視覚を刺激する。傷だらけの私の心を誰か優しく包んでくれないだろうか。夢の中で誰か抱きしめてくれと心の中で叫びながら私は眠りについた。

 

半ケツで。