革ジャン⇔スーツ

毒は持っていません。毒と感じるのはあなたの感性。

私が会社を起こそうとした理由

「仕事、やっと取ってきました」

「おー!凄いやんけ!どこや!」

「○○化学です。」

「やるなぁ!なんぼや!」

「6000万です。」

「良かったなぁ。頑張ってたもんな!」

「ありがとうございます。やっと会社に貢献出来ました。」


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そこは小さな会社であったが、店舗で販売員をしていた私をその会社の社長が引き抜いた。理由は「お前オモロいやっちゃな!一緒にやろや!」であった。今まで全く関わらなかった業種で、何もかもが初めて見るもの、初めて体験するものであった。私はその会社で、必死に製品のことを勉強し、必死にその環境に慣れようとしていたが営業成績は鳴かず飛ばずだ。店舗営業ではそこそこの営業成績をこなしていたので、その焦りは尋常ではなかった。何故私にこれが出来ないんだろうか、勉強が足りていないのか、話し方がおかしいのか、そんなことばかり毎日思いながら仕事をし、勉強し、そしていつも無理をして笑っていた。

営業内容は、提案型のコスト削減製品を売ることだ。一昔で言う「ソーラーパネル」であったり「LEDの蛍光灯」のようなものである。それを自分で見つけた営業先に提案し、売上にするのが私の仕事である。リストアップという名で親兄弟の名前や友人の名前を書かされ、時には電話帳片手にテレアポ電話営業をし、飛び込み営業に関しては大阪の北から南まで歩いて回った。売れなかった。理由は分かっていた。この会社には私を教育する人間がいないのだ。私は私の知りたいことを私自身が調べて本を読んで知識を得なければいけない。周りの営業マンはやる気のない奴らばかりであった。

「数字が上がらない営業はただのバカ」「お前の相手に対する気遣いが足りない」「可愛がってもらえる人間になれ」「女にモテない奴は仕事も出来ない」などなど名言の多い会社であったが、右も左も分からない私は全てを鵜呑みにした。「売れない私が悪いのだ」と。少しずつでも金を会社に持って帰ろう、稼げない私が経費を使って会社の金を減らすわけにはいかないと、交通費や雑費は全て自腹で買った。その社風に合っていた同僚は、みるみる出世していった。しかしながら不思議と悔しさは無かった。その同僚営業も売っていなかった、数字が無かったからである。おべっかで成り上がれなくとも構わない。

ある日私は方向転換した。エンドユーザーを標的にした営業はやめた。知識や技術を身につけながら物を売るにはどうすれば良いのか。同業他社に頭を下げてお願いしながら資料を少しずつ集め、自社に足りないものを補いながら他者からのおこぼれ仕事をかき集めた。本当にちょっとずつ、ちょっとずつ人脈を広げたのだ。気が付けばそこそこの売上を集めることが出来た。その時である。超大手から声が掛かった。「手伝ってくれないか」と。勿論ですと回答した。

超大手役員との打ち合わせ、会議、現場調査、組み立て工場の査察、見積もり。全て順調だった。そして最後に「よし、発注するよ」と発注を貰ったのだ。纏まった売上が初めての私は「よっしゃあー!!!6000万!!!」と恥ずかしげもなく喜んだ。お客さんもよくここまで手伝ってくれたと喜んでくれた。そして会社に帰った私は社長に報告をする。今までタダ飯食わせてもらっていたからやっと恩返しが出来ると心踊った。

 

「仕事取ってきました。」

「え?こないだ会議で言うてたやつ?なんぼ?」

「6000万です。」

「無理やで。」

「…?」

「材料代無いで?どないするん?」

「どないする...?とは?」

「金どないすんねん。そんな金会社に無いで。前金頼まれへんのか?」

「幾らかは… 多分…」

「材料屋に金払ろてへんから注文出来へんで。どないするん?」

「どないするて…」

 

泣いた。この社長は社員の私に「資金繰り厳しいからアコムかどっかで借りてきてくれへんか...」と言ってのけた社長である。私は思った。こんなボンクラのカスでも社長になれるなら私でも出来るんじゃないだろうかと。「社長」を少し「凄い」と思い込み過ぎていたのだ。社長だろうが専務だろうが、私と同じ人間だしコイツは多分私と同じ、いや、それ以下のクズだ。やれると思った瞬間「お前自分で断れよ」と言って会社を辞めた。まぁ数字を持ってない営業の私が辞めたとて苦しくなる事などないだろう。と、言いたいが先ほど少し書いたようにグングン出世する同僚も数字を持っていない。結果、会社に金を持って帰ってきていたのは私だけであった。程なくしてその会社は潰れた。

社長など偉くも何ともない。偉そうな社長程ほどクズ度が高い。やり手の社長は皆腰が低い。社長かどうかなんてどうでもいい。私は自分が取ってきた仕事が面白いから、皆より前を走ってるだけなのであーる。

 

図面描きながらどん兵衛食ってたら思い出したから書いてみた。